お焼香について
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仏教の葬儀においては、「お焼香」を行うのが一般的です。今回はこのお焼香の由来や作法、そして宗教・宗派別の考え方について解説していきます。
目次
お焼香の由来と意味について
「お香」を使う文化は、仏教に限ったことではありません。キリスト教などでもお香は昔から珍重されてきました。ただ葬儀の場面においては、キリスト教ではお焼香の代わりに献花を行います。なお、神式の場合は玉串奉奠が行われます。
仏教の葬儀で行われるお焼香には、さまざまな意味があります。
まずひとつめに、お焼香を行う人間の心身を清らかにするためというものが挙げられます。また、お焼香を行うことによって故人と静かに、集中して向き合えるとされています。
仏教においては、「香り」は仏様のご飯になるといわれています。そのため仏壇にも香りを捧げる文化があります。
さらに、「極楽浄土は良い香りでいっぱいであり、極楽浄土からやってくるお迎えはこの香りをまとっている」とされています。このことから、極楽浄土のあり方を現世に反映させようと、お焼香が行われるとされています。
お焼香を行うことで広がっていく香りが、仏教の教えが浸透していく様子を意味するとする説もあります。仏教においては、「人も物も永遠のものではなく、いつか必ず消えていく」という考えをとります。消えていくお香に、この無常観を見出しているという説もあります。
お焼香の由来は、お釈迦様のお生まれになったインドに端を発するといわれています。かつては「臭い消し」の意味合いが強かったお香は、ご遺体を腐敗臭から守るという実利的な面もありました。この実利的な意味が、やがて宗教的な意味をまとうようになり、上記のような解釈がなされるようになっていったと考えられます。
お焼香のやり方について
「お焼香のやり方」の基本を、まずは紹介していきましょう。なおここではもっとも一般的な、「立ち上がって行うお焼香(立礼焼香)」のやり方を取り上げます。
1.焼香台の前に行く
2.ご僧侶様とご家族様に一礼をする(自分が家族の立場なら、ご僧侶様に一礼をするのみ。ご参列者様への一礼は不要)
3.遺影に向かって一礼をする
4.左手に数珠をかけ、右手の親指・人差し指・中指でお香をつまむ
5.額におしいただく
6.香炉の中に香をくべる
7.合掌を行う
8.遺影に向かって一礼をし、ご家族様に向かって一礼をする
9.自分の席に戻る
これが基本のやり方です。一般的な葬儀式場で行われる葬儀の場合は、ほとんどがこのやり方をとることになります。
なお、「葬儀を行う場所が個人の家、あるいは狭い部屋である」という場合は「回し焼香」のかたちがとられることもあります。これはお香と焼香炉(一体化しているものもあります)が乗ったお盆が隣の人から回ってくるもので、自分の席でお焼香を行うやり方です。やり方の手順は、お香をつまみ、額におしいただき、焼香炉にくべて終わりです。自分のお焼香が終わったら、そのまま次の人に渡します。次の人にお渡しするときには、必ず両手でお渡しするようにしてください。
小規模な葬儀や法事・法要ではこの回し焼香のかたちがとられることもあります。
もうひとつ、回し焼香と同じく狭い部屋での葬儀のときに行われるものに、「座例焼香」があります。
座例焼香は、焼香台の近くまではまずは歩いて(といっても数歩程度でしょう)、いったん座り、ご家族と遺影とご僧侶様に向かって一礼をします。その後は立ち上がらず、焼香台の直前まで膝で寄り、合掌をしてお焼香を行います。お焼香が終わったら合掌をお行い、膝を使って少し後ろの方に下がり、一礼をし、その後立ち上がって自分の席に戻ります。
宗派による違い
上記では、「基本のお焼香のやり方」について触れましたが、実は在来仏教のなかでも、お焼香のやり方は宗派によってお焼香のやり方は多少の違いがあります。
また、「線香を使うか、それとも抹香を使うか?」にも違いがみられます。
天台宗・真言宗
額におしいただき、3回お焼香をする
浄土宗
線香が使われる場合もあれば、抹香が使われる場合もある。お焼香のやり方に特に決まりはない
浄土真宗本願派
額におしいただくことはせずに、1回お焼香をする
浄土真宗大谷派
額におしいただくことはせずに、2回お焼香を行う
臨済宗・曹洞宗
1回目はおしいただき、2回目はおしいただかずにお焼香を行う
日蓮宗
3回お焼香を行う場合が多いが、明確な決まりはない
このように、宗派によってやり方には違いがみられます。
宗派ごとのお焼香のやり方、マスターしておかなければダメ?
「宗派ごとに違いがある」ということで、「このすべてをマスターして、間違いのないようにしなければならないのか」と不安に思う人もいるかもしれません。
しかし実際には、このやり方をそのままマスターする必要はありません。
参列者として葬儀に参列する場合、お焼香の順番は喪主様・ご家族様の後になります。そのため、喪主様・ご家族様が行ったのと同じやり方でお焼香を行えばよいため、宗派による違いを覚えておく必要はないのです。
またここで挙げた「宗派別のお焼香のやり方」も絶対的なものではありません。浄土宗以外でも線香が使われることもありますし、参列者が多ければ焼香の回数を短くすることもありえます。またそもそもお焼香とは、その大前提として、「故人と向き合うためにあるもの」「故人を悼むためにあるもの」です。葬儀のマナー全般についていえますが、葬儀の場は「マナーが守れているかどうか」を競う場面ではありません。そのため、たとえお焼香のやり方や回数が少し間違っていたとしても、それを咎められることはないでしょう。
上では「数珠」についても触れましたが、数珠についても同じことがいえます。数珠も、厳密には宗派によって形の違いがみられますが、参列者の立場では数珠の形の違いまで見られることはありません。
大切なのは、「仏教ではお焼香というものがあり、それは故人と向き合うためのものであり、基本的なルールがあること」を理解する思いなのです。